おコメ博士の闇米日記

日本農業(特におコメ)について考えるブログです。とりあえず100記事達成

日本農業のディストピア④ ―そして辿りつく低コスト生産という結論―

さて、前の3連記事では、北海道農業とは対照的に取り残される日本農業の経緯を、戦後の食糧難時代からコメ余りの時代までを振り返り、更に追い打ちをかけるように、自由貿易の波がコメ業界に迫っている現状を書いてきました。

↓3連記事

mroneofthem.hatenablog.com

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今回の記事では、そうしたディストピアな日本農業の現状を政府や行政機関はどう捉え、どこに活路を見出しているのか、を書いていきます。

政府のコメに対する基本スタンスを知る上で良い資料としては、2017年11月に農水省ホームページで公表された以下の資料です。

『米をめぐる関係資料』

米をめぐる参考資料:農林水産省

では、早速揚げ足をとるような意地悪いスタンスでツッコミながら、資料の中心部分を見ていきましょう。

 

≫コメの位置づけ

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「コメの国内生産は、我が国の食料安全保障、食生活、農業・農村、国土・環境などに不可欠のもの。日本人の歴史・文化とも密接な関係。」と書かれています。

さて、コメに特に思い入れがない合理的な物事の考えをする人にとっては、

「コメの国内生産は不可欠のもの。」

という時点で引っかかる人も多いのではないでしょうか。理由としてはまずコレ。

1)食料安全保障といっても、以前の記事でも述べたように日本農業のエネルギーは完全な輸入石油依存であり、稲作や水田が維持されているといっても食糧安全保障力が高いとは言えない。

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2)食生活についていえば、確かに過去を振り返ればコメは日本の主食だったが、戦後はコメの消費量は年々減っておりパン食は増えている。パン美味い。食生活にコメを絶対視する必要がない。

3)全耕作地の半分以上が水田のため面積において農業の中心であることは事実だが、農業生産額においてコメは20%を切った。約50%だった1960年頃の状況とは違い、農業におけるコメのウェイトは大きく下がっている

 

と、こんな風に、日本にとってコメというこだわりは捨てない方がいいと思っている私ですら、ざざっとイチャモンをつけることが出来ます。経済方面の人からすれば、農林水産業の国内生産額が現在では1,1~1.2%程度であることにも言及したくなるでしょう。*1

 

他方で、同意できる点としてはコレ(赤線の部分)。

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1)食文化の基礎:文化は経済価値に換算することは難しいですが、韓国にいけばキムチを、アメリカに行けばハンバーガーを、フランスにいけばワインを口にしたくなるといったように、文化は消費の方向性を作ります。日本にきたら寿司を食べたいって人は多いですよね?

2)稲作や水田の有する多面的機能:植林やダムで対応できるという意見もありますが、水田には洪水防止や水資源の涵養といった国土保全の機能があります。

3)日本人の歴史や文化と密接な関係:これまた経済価値という意味ではわかりにくいものですね。ただ物語があるということは、文化を彩り、農業に生産活動以上の意味を付け加えるものではあります。

 

農業関係者の多くが、1)~3)などの経済価値には換算しづらいが共有できる価値感をもっていますが、農業に馴染みがない人には想像しづらいでしょう。農業をやってみれば分かりますが、いい天気の日に皆で農作業にいそしんでいると、それだけで満足感があったりします。しかし反面、その満足感ゆえに経済価値について無視し農業が社会にとってどんな役割を果たせるかのアピールを怠ってきたことも事実です。近年経済界から農業界へ向けられる厳しい態度は、ある種そのツケだと言えるでしょう。

 

≫水田フル活用

一般国民と農業関係者の農業の位置づけに大きな乖離があることは置いておいて、農水省はコメと水田は我が国に不可欠のものと位置付けています。

その強いコメ原理主義思想(私もコメ原理主義ですが)を根拠にして、昨今は水田フル活用という言葉が幾度も聞かれます。

長い減反制度を続けてきた日本農業において、

「あんだけ減反しといて今度は水田フル活用かよ!」

と言いたくもなりますが、2018年から減反廃止が決まった今、大きく方向性が変わろうとしていることは事実です。

 

≫コメの生産コストを減らそうぜという方向性

水田フル活用を実施するに当たって、生産コスト低減が一つのポイントになっています。その理由は、将来的な輸出に備え国際競争力を高めていくこと。というのも、ご覧のように外国とのコメの生産コストには大きな差があります。

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国名に“米”が入るアメリカ(なんでこの漢字にしたの?)の生産コストは日本の約1/7

そりゃあ経営規模が70倍とかですからね。飛行機で種を播いたり農薬かけたりのスケールです。この比較ではむしろコスト差が7倍程度でおさまっていることに驚きです。

「でも、結局コスト減しても値段で太刀打ちできないんじゃない?」

という疑問はとりあえず置いておいて、ここではどのように低コスト減を実現するのか、政府の考えをみていきましょう。

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1)直播栽培:種籾を直接ばらまいていくやつです。育苗と田植えは全作業の1/4と言われているので、直接ばらまけば1/4コストカットできる試算です。

2)多収品種:品種による収量性の違いは大きいので、緑の革命の原理を踏襲し、高収量性品種と多肥栽培によって単収を増やせるはずです。

3)農地集積:ちまちました田んぼじゃなく、どでかい田んぼをドドンと作れば効率よくなるよねってことです。

4)生産資材費の低減:これは大部分が農協問題ですね。農協で買うより、ホームセンターで買う方がよっぽど資材が安い、という矛盾は解決しなければいけないのです。

 

そして、これらの改革を推し進めるためにICT等の最新テクノロジーを農業に導入していこう、というのが今の流れです。確かにこれらの導入により、低コスト化することが出来ます。今後10年間の目標はズバリ

現状 1万6001円/60kg ➡ 10年後 9600円/60kg です。

なんと40%減!大きく出ましたね。

 

ところで、コストを下げ単位面積当たりの収量を上げていこう、というこの農業、どこかで見覚えがあります。

そう、それは緑の革命。多収性品種と化学肥料・農薬によって収量を激増させた出来事です。今回はこれにICTがプラスされているくらいかな・・・?

緑の革命については以下記事参照)

mroneofthem.hatenablog.com

 

***

現在の農政の方向性を弁護するなら、確かに現状よりはベターになる、ということが言えます。経営の意志がなく、農協組合員としてただ作るだけの小農の人には退場してもらい、経営感覚のある農家に農地を集積させる。新しいテクノロジーを導入し、生産効率を改善する。確かに、今までより生産効率はあがり、大規模化することで黒字化できるかもしれません。

しかし国際競争という点ではどうでしょうか。

高収量性品種を導入し、多肥栽培で育てることに秀でているのは大きな農地をもつアメリカやオーストラリア等の大国で、彼等こそそのスケールメリットを享受します。

また、低コスト化のために栽培の効率化をすればする程、日本農業の独自性は薄くなります(そんなものは元々ないと言われればそれでおしまいですが)。

現在の世界の農業の潮流からいっても、資源依存度を高める農業は環境問題にも影響し、持続性が低い農業と言われトレンドから外れています。

日本産のコメは高品質だ、と言いますが、それは果たして本当でしょうか。

生産コストを4割削減し、国際的にも新しくない栽培方法で独自の品質がでるのでしょうか。それほど日本産が無条件に高い価値を生み出すのでしょうか。

その点が大いに疑問です。前回の記事で書いたように、現在は東南アジアでも日本米の生産が進み、その味も決して悪くないのが私の実感です。そして、もちろん値段は格段に安いのです。

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生産コストを下げる、ことは好ましいことです。

そのために大規模化やICT導入をすることも、好ましいことです。

ただ、その先にどんな農作物を作り出すのか、どんな農業を実践するのか、というこだわり、ビジョンこそが農地の小さい日本にとっては重要です。

価格や効率では他国にかなわず、エネルギーも枯渇資源に依存しているのが日本農業だからです。

農業には多くの補助金が投入され、高い関税によってコメは守られていますが、日本の稲作にこだわりがなければ、補助金を投入する正当性は失われますし、関税で守る理由も失われます。消費者は容易に「外国産のコシヒカリを食べればいい。その方が安い。」という決断を下すでしょう。

日の丸の扇子のイラスト

では、どんなこだわりであれば日本で農業を行う意義があるのでしょうか?

どんな独自の価値が日本で生み出せ、国際的な価値を生み出せるのでしょうか?

そのあたりは、日本農業を国際的な目線から相対的に把握することが必要でしょう。

日本農業の短所と長所、それを炙り出すことが、日本独自のこだわりを見つける近道だと思うからです。

と、今回は長々と書きました。日本農業の国際的価値については今度の記事で。。。

 

 

*1:平成28年度国民経済計算年次推計 生産(産業別GDP等)

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h28/sankou/pdf/seisan_20171222.pdf